決戦の蒼空へ 日本戦闘機列伝

決戦の蒼空へ―日本戦闘機列伝 (文春文庫)

決戦の蒼空へ―日本戦闘機列伝 (文春文庫)

渡辺洋二氏による、太平洋戦争中の戦闘機に関する小ネタを集めた本…という事になるのだろうか。一冊の本で一機種や一つのテーマを追うのではなく、いろいろな機種のいろいろなエピソードを取り上げている。


渡辺洋二氏の本はいつも興味深いのだが、今回特に面白かったのは、紫電に関する記述。日本海軍前期を代表する戦闘機が零戦二一型なら、後期を代表する戦闘機は紫電改だろうか。本当の事を言えば、機数から言っても後期の主力戦闘機は零戦五二型なのだろうが、残念ながら性能という点で見劣りする。で、紫電改の原型たる紫電の戦歴だが、今まであまり取り上げられる事が無かったのではないだろうか。生産数は紫電改の415機に対し倍以上の1,007機。それなのになぜ活躍が伝えられなかったのか…。読んで頂ければ分かるが、要は大して活躍しなかったと。性能も扱いやすさも紫電改より遙かに劣ったそうだ。何でそんな機体を千機以上作ってしまったんだろうか。


それから疾風に関して。「大東亜決戦機」として名高い疾風だが、操舵の重さが不評だったらしい。五式戦の方が多くの点で優れ、陸軍最良の戦闘機は五式戦にこそ相応しいという評価があるそうだ。そういえば疾風も活躍した話を聞かないな。五式戦は本土防衛戦でそれなりに活躍したようだが。


他には、第三四三航空隊の飛行隊長である林喜重大尉、鴛淵孝大尉、菅野直大尉および隼戦闘隊長として名高い加藤建夫中佐の、隊長としての資質や人となりについても記述されている。いずれの隊長にも共通するのが決断力と率先垂範。人の上に立つ者はかくあるべしという例にもなっている。


他にも綿密な取材に基づいた興味深い話しが盛りだくさん。太平洋戦争当時の航空関連に興味がある人は是非お手にとって頂きたい。