ゴールドマン・サックス研究 世界経済崩壊の真相

ゴールドマン・サックス研究 (文春新書)

ゴールドマン・サックス研究 (文春新書)

「世界一の投資銀行ゴールドマン・サックス。かつてゴールドマン・サックスで働いていた著者による、現在の歪んだゴールドマン・サックスの姿を書き出した本である。


筆者の勤めていた頃には、将来性のある会社を探し出し投資し成長を支援するのが投資銀行の仕事であった。しかし、今や投機で稼ぐいかがわしい会社に成り下がり、各方面から厳しい批判を浴びている。リーマンショックの際、政府によって(=税金によって)救済されたにもかかわらず、ほとぼりが冷めると再び巨額のボーナスをむさぼっている。


ギリシアアイスランド債務危機にもゴールドマン・サックスを始めとした投資会社が暗躍した。ギリシアに関しては、本来債務として計上すべきものを、怪しげな経理処理によって債務以外のものとして計上させ、しかもその手数料を3億ドルも取ったのだとか。アイスランドは金融立国(笑)などと称して様々な証券化商品に投資したあげく、それらが値下がりし国自体がおかしくなってしまった。一部のアホ財界人や経済評論家が「アイスランドに学べ」などとほざいていたのも今となっては笑い話である。アイスランドに住む一般市民にとっては笑い事ではないだろうが。


アメリカでもヨーロッパでも投資銀行の過激なマネーゲームに規制を掛ける動きが出ているそうだ。虚業から実業への回帰は、それが成し遂げられるなら素晴らしいことだろう。しかし、金は力である。金の力でもって法律すら変えてしまう投資銀行に太刀打ちするには、並大抵の指導者では無理だろう。


著者が恐れるのは恐慌とその結果の戦争である。思えば、第二次世界大戦もその遠因は世界大恐慌にある。ニューディール政策をもってしても回復できなかったアメリカ経済が立ち直ったのは第二次世界大戦特需であったし、日本の復興にも朝鮮戦争特需が追い風となった。しかし、他国の戦争で復興を期待するというのは、まともな選択肢としては有り得ない。また、これからの戦争スタイルとも言える非対称戦争では、なかなか特需が起こりにくいという側面もある。


本の後半では日本の行く末について語られている。日本の技術は素晴らしい。しかし、これは過去からの積み重ねの結果であって、今現在は企業も近視眼的投資しかせず将来のために金が使われていない。永続的に「知恵」を売れるようになれ。さもなければ、この国は中国やインドなどに勝てなくなる…。


「実業に回帰せよ」というこの本の主張は実に真っ当で、この通りになれば日本はきっと良くなると確信できる。しかし、必ず既得権者の妨害に遭い、実現は難しいと思う。


本の内容とはずれるが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加すべし、いや不参加だといろいろな意見がある。私見だが、関税が無くなることで売れる物=値段競争で戦う物に関しては、もはや中国・韓国・インド他の新興国には敵わない。値段が高くても買いたい高付加価値商品(ブランドでも良いし、安全な食品でも良いし、新興国で作れないような高機能家電でも良い)を作らなければ日本に勝機はない。そういった物であれば、関税を掛けられて値段が高くても売れるだろうから、国内の農業を壊滅させてまでTPPに参加する必要は無い。そんな高付加価値商品など作れないというなら、TPPに入ろうが入るまいが新興国にはどうせ勝てず、だったらせめて国内の農業を保護した方がましと言うものだ。


これも示唆に富んだ本です。是非ご一読を。