モンスター

モンスター (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

永遠の0」の著者、百田尚樹氏の本。バケモノの様に醜い容姿が原因で悲惨な青春時代を送った主人公が整形手術に目覚め、莫大な費用と多大な犠牲を代償に完璧な美人へと変貌を遂げる。彼女は自らの故郷である田舎町へ帰ってくる。かつて想いを寄せた、ある男に逢うために…


ブスより美人が持て囃されるのは残念ながら自明の理である。この本では記述されていないが、美人やイケメンは生殖能力を含めた健康にも秀で、優れた遺伝子を持っているというのだから、不美人や非イケメンは立つ瀬がない。この小説の主人公は畸形的なまでに醜い容姿を持っているというのだから、さぞかし周りの人々からの迫害にあって心根が腐りきってしまいそうなものだが…この女主人公の心の動きはリアルなものなのだろうか。女ならざる我が身にはちょっと判定が出来ない。


一方、美しくなった主人公に言い寄る男達の行動がいかにもテンプレ通りで、しかもそれが次々と出てくるものだから読んでいて辟易させられる。もっとも、ごく一部のテンプレとは違う行動を取る男達がいて、彼らを際だたせるための手法なのかも知れないが。


整形に関して、簡単に元に戻せる手術から大きなリスクを負う手術までいろいろな整形手術が紹介されている。正直言って、低リスクのプチ整形くらいなら、全ての人が実施しても良いんじゃないかな…と思わされた。


そして「モンスター」という題名。醜かった頃の主人公が故郷で事件を起こし、それが元でモンスターというあだ名をつけられたというエピソードがあるのだが、そこから題名を取っただけなら安直過ぎる。男からの愛と賞賛を得るために整形にのめり込んでいった主人公を指しているのか、それとも、たった2ページのエピローグにて暗示されているある人物(の行動から窺い知れる普遍的な精神構造)を指しているのか、ちょっと考えさせられる終わり方になっている。


美容整形で有名な作家の中村うさぎ氏が、あとがきで勝手に「モンスター」の正体を書いていて「なるほど!」と思わされたが、百田氏が「モンスター」という題名に込めたものとは同じではないかも知れない。あと、中村氏は女主人公の心理描写や行動の描かれ方に思うところがあるのかな…と感じさせられた。


正直、誰が得をするのか分からない小説である。この結末から何を感じ取れば良いのか?それとも、細けぇことは良いからブス(&ブサイク)は整形に行けという事だろうか。まあ、それでその人の人生が一瞬でも輝くのなら、それはそれで良い事なのかも知れない。