チェイサー91

チェイサー91 (祥伝社文庫)

チェイサー91 (祥伝社文庫)

スクランブル」シリーズの夏見正隆氏による新シリーズ。ブログを休止していたときに読了済みなのだが、続編も出たので改めて読んでみた。


主人公は、航空自衛隊F-15の整備士を務めている舞島茜。元はパイロット候補生だったのだが、特殊なマニューバを行った際に失神し、それが原因で戦闘機パイロットとしての道を断念した過去がある。


速度計の表示が出なくなったというF-15J 889号機(72-8889?)を茜とその先輩である整備班長が点検していたとき、防衛大学出のエリートパイロットが889号機を年次飛行に使用するためと言って自ら整備を実施しようとする。本来ならパイロットは機体の整備には携わらない(偉いからでは無く整備士の領分を侵さないため)し、整備士側も携わらせないのだが、どうしてもと言われ機体を触らせてしまう。


一方、世界では、パク・ギムル国連事務総長(著者注:この作品はフィクションであり、登場する人物および団体名は、実在するものといっさい関係ありません。)が、脱原発に舵を切った日本(注:小説の中の話です)がプルトニウムを持っているのは平和への脅威だから国連に差し出せと言いだす。なぜ日本からプルトニウムを奪うか。それは、日本がいざとなれば核兵器を開発可能な技術を持っており、それを脅威と感じている国があるからである。


このパク・ギムル国連事務総長(著者注以下略)は、その他にも韓国は第二次世界大戦戦勝国であるとか言い出し、しかも根回しによって国連の総会でそれを認めさせようとするなど、公平を求められる立場でありながら特定の国(というか自国)の都合の良いように物事を進めようとする、事務総長という職務の資質を欠いた人物として描かれている。


年次飛行のために飛び立つF-15J 889号機及び891号機(72-8891?)。889号機には若手パイロットが乗り、891号機には889号機を整備したエリートパイロットが乗り込む。訓練空域に辿り着き、ACM(空中戦闘機動)訓練を実施するが、マスター・アームスイッチがOFFになっていたにも係わらずミサイルが射出され、891号機が行方不明になってしまう…


日本からプルトニウムを奪い取りたい中国、アメリカ。それを利用しようとする者、それを阻止しようとする者、さまざまな立場の者達の思惑が交錯する…


今回も航空アクションはまずまず。細かいことを気にしなければ充分楽しめる。しかし、この著者の作品は、女性が主人公だと荒唐無稽さが増す(気がする)し、今回はその他に何点か難点があり何とも…


ACM訓練中のミサイル誤射だが、現在の航空自衛隊では訓練時にキャプティブ弾(推進装置及び弾頭を持たない訓練用模擬弾)を使用しており、仮にマスター・アームスイッチがONになっていても射出することは有り得ない。劇中の航空自衛隊みたいな何かがアホ集団だというのなら、実弾を使って訓練するのかも知れないが…
(但し、昔の航空自衛隊は残念ながらアホ集団だったらしく、アラート待機が解除された後の機体から実弾を外すこと無くACM訓練に使用して誤射事件を起こし、貴重かつ高価なF-15Jが1機海の藻屑と化したことがあった)


その他、駐機中の機体からバルカン砲を撃つシーンがあるのも興ざめ(脚が出ている状態では原則として全武装がロックされるようになっている)。


夏見氏の作品が好きで、細かいところには目が瞑れる人にはお薦め。


あと、891号機に関してだが、F-15J 72-8891は1995年に事故で喪失している機体である。なんであえてこの機番を選んだのだろうか…