人生には転機がある。


転職は人生における大きな転機の一つである。希望を抱いて新しい職場へと移ってゆく仲間に対し「よかったね」と手を振って見送ってあげるのが人情というものだろう。しかし、この世にはそういった人情に欠ける人間もいるようだ。


退職を申し出た途端にいらない人間扱い。「彼は能力が無かったからここに残れなかった。」手一杯こき使うくせに慰労の言葉すらない。世間ではもうすぐ夏期賞与の時期だが、支給日には既に退職後である故に一銭たりとも支給しない。彼が今、血の小便を流しながら遂行している作業の対価を彼が得ることは無い。


「職場として送別会は行わない。有志で好きにやれ。」長年仕えてきた部下に対する言葉だろうか。自身はお手盛りの査定で過分な報酬を得ているのに、餞別一つ出す気がない。「金目当てで余所に移るんだな。」ならばもっと報酬を与えるべく努力したのだろうか。報酬で報いてやることが出来ないなら、せめて待遇で、せめて働きやすい場を作るべく努力したのだろうか。上に立つ者として相応しい事を何か一つでもしたのだろうか。


彼の憤りを、自身の憤りを、忘れない為に。
醜いものを見て、醜いと感じた事をいつまでも忘れない為に。