影まつり

影まつり (集英社文庫)

影まつり (集英社文庫)

阿刀田高さんの、12編の短編からなる短編集。
気に入ったのは以下の4編。


女系家族
主人公は結婚して約30年、家族も含め特に災いに遭うこともなく幸せに過ごしてきた。妻と結婚する時に「1年に1晩だけ自由にさせてください」と言われ、それを承諾する主人公。今までは、妻が何をしているのか詮索する事を自重していた主人公だが、思うところあってついに本格的に探ることにする。外出する妻を尾行した主人公がみたものは…
作者の意図に反し、心温まる良い話だと思ってしまった…もちろん、反対の感想を持つ人もいるだろう。


・私の一番
ストラカンという毛皮の事を初めて知った。…まあ、なんと言うか、さぞかし柔らかい毛皮なんだろう。皮を採る方法を思うととても欲しいとは思えないが。


・プレイボーイ入門
デートの待ち合わせ場所に急ぐ主人公が、歩道で転んでしまった老婆を家まで送っていく。老婆は主人公を家に上げてお茶を勧めようとするが、待ち合わせ時間が迫っている主人公は断って立ち去る。後日、主人公の耳に入ってきた噂話とは…
この話のネタになるような風習だか事件だかを聞いた覚えがあるのだが、よく思い出せない。孫の無窮の幸せを願うのは、祖父や祖母にとって自明の理であろうか。


・下駄を買う男
下駄を飛ばして表が出るか裏が出るかで判定する占い。主人公は人生の岐路で下駄に行く末を委ねるが…
これも心温まる良い話。占いを信じるも良し、占いに抗ってでも運命に立ち向かうならそれも良し。


さすがの名人も切れ味が落ちてきたかな。昔の短編集なら12編中お気に入りが12編なんて事も良くあったのだが。
今の阿刀田高さんには、切れ味が命の短編よりも豊富な知識を駆使した長編をぜひお願いしたい。