永遠の0(ゼロ)

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

司法試験に落ちた事がもとで無職のままぶらぶらしている26歳の青年が主人公。駆け出しのフリーライターをしている姉の誘いで、特攻で死んだ祖父の事を調べる事になる。かつての祖父を知る人物に会いに行った主人公達は、思いも寄らぬ言葉を投げつけられる。「奴は海軍航空隊一の臆病者だった」…


祖父は、なぜ臆病者と言われたのか、なぜパラシュートで降下する敵パイロットを撃ったのか、なぜ戦争を厭いながら志願して海軍に入ったのか、なぜ生き残る事を渇望していながら特攻に赴いたのか、そして祖父を巡る旅で、主人公達が最後に辿り着いた人物とは…


祖父を知る人達の話を通して、太平洋戦争の経過が辿れるようになっている。その中で目を引いたのが、海軍の将官クラスに対する批評である。自分が死ぬ心配の一切無い作戦では無謀な事を行うのに、自分が前線の指揮官となり死ぬ可能性がある場合、勝ち戦でも反撃を恐れてすぐに退却してしまう。真珠湾の南雲、珊瑚海の井上、第一次ソロモン海戦の三川、そしてレイテの栗田…。こいつらはそもそも軍を率いる将たる資格が無かったのだろう。


そして特攻を推進した連中の愚劣さ。特攻作戦自体の愚劣さ。
特攻に赴いた若者達の高潔な精神と、特攻作戦自体の愚劣さには何の関連もない。だがえてしてそれを混同し、特攻隊員の尊い犠牲があったから今の日本があるなどと世迷い言を言う人物が居たりするのが困る。
特攻隊員に限らず、前線の兵士達が日本を護る為にその身を犠牲にした事には議論の余地がないが、それが特攻である必要は全くない。


そもそも最初の特攻機として使われた零戦は、強度不足が原因で急降下が苦手な機体である。米軍の戦闘機は、零戦と遭遇しても急降下すれば易々と逃げられたのだ。そんな零戦を体当たりに使っても、通常爆弾を投下した場合よりも貫通力や破壊力が落ちるのは必定だろう。通常の攻撃で沈められた通常空母は日米両方に存在するが、特攻で沈んだ通常空母は1隻たりともない。


それでも零戦ならまだましで、終いには練習機に爆弾を括り付けて出撃させる始末。よほどの馬鹿でなければ無意味な行為であると気付く筈なのだが、官僚気質の幹部共にはそれが理解出来なかったらしい。「他人の苦しみなら十年でも耐えられる」とはよく言ったものだ。


一方、特攻命令を拒否した事で名高い芙蓉部隊の美濃部少佐にも記述が及んでいたのは嬉しかった。特攻を賛美するくらいなら、美濃部少佐を賛美した方が何倍もマシだ。


この本は戦記物でもあり、空戦シーンもふんだんに登場する。祖父は「勇敢ではなかったが、優秀なパイロット」であり、零戦を操って米軍機を一蹴するシーンなどもあって戦記物好きでも楽しく読む事が出来る。


太平洋戦争物が好きな人は押さえておいて損はないと思います。ただ、どちらかと言うとマニアックな人よりライトな人向けかな?太平洋戦争をよく知らない人が1〜2冊目くらいに読む本としてはとても良いと思います。