街のアラベスク

街のアラベスク (新潮文庫)

街のアラベスク (新潮文庫)

阿刀田高さんの、12編の短編からなる短編集。
以前紹介した「影まつり」はミステリー色の強い短編集だったが、今回の「街のアラベスク」は”男と女の関係”にまつわる話で編まれている。


ミステリー物、それも短編となれば結末の切れ味が問われるが、恋愛物ならば切れ味よりも読後の余韻で勝負する事が出来る。オチが読めてもしらけない。人生経験も極まった感のある今の阿刀田さんには、ミステリー物よりも恋愛物の方が向いているのではないか、読んでいてふとそんな事を思った。


特に心に残ったのは以下の2編。


・美しい人
弁理士を目指す青年が、普段は誰も住んでいない屋敷の留守番係になる。たまに様子を見に来る婆やは、この屋敷の本来の主人を”お嬢さま”と呼ぶ。”お嬢さま”は40を越えた女性で、しかもとても美しいのだとか。
青年が留守番係を勤めて数ヶ月、ついに”お嬢さま”と顔を会わせる。容姿の美しさ、そして凛乎とした気配に感じ入る主人公。
主人公の妹が結婚する事になり、ふと主人公がお嬢さまに結婚の秘訣を訪ねる。お嬢様は「代々嫁ぐときに教えられる家訓がある」と答える。だがそれは書状で直接妹に伝えられ、主人公はその内容を知らせて貰えない。
後日、主人公が知った「家訓」の内容とは…


男性ならこの家訓に深く納得がいくだろう。女性、とくに今日日の女性にとっては「ナニソレ?」って程度にしか感じられないだろうが。


・公平さの研究
阿刀田さんが過去に短編やエッセイで再三書いているネタの再利用である。しかし、単純な再利用ではなく一捻りした使い方をしている。「ネタは出なくなったが、ネタの料理方法は上達してきた」と語る作者の力量がよく分かる短編。


他の短編も、過去のエッセイ等で書かれているネタをさらに料理したものが多い。「影まつり」よりは楽しく読めたかな。