利休にたずねよ

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

美の巨人、千利休
この小説は千利休豊臣秀吉の命により切腹する場面から始まる。命を賭して美に殉じた利休。利休の「美」に対する執着、そして利休が極めんと欲した「茶の道」の原点がどこにあるのか、時を遡りながら探ってゆく。


利休の求める「美」には、常にある一人の女の影がつきまとっている。利休が十九の時に出会った女。高麗からさらわれて日本に連れてこられた女。高貴な生まれであり、きわだって凛々しく美しい顔だちをしていた女。そして、利休自身が殺した女…


どうやら上記の女性は著者の創作らしく、史実とは異なるようだが、「美」に殉じる利休にとっての「美」の象徴的存在として位置づけられている。


茶会の様子なども生き生きと描かれていて、茶道に関しては全くの門外漢である私にも楽しく読める。茶道を多少なりとも知っている人ならば、より楽しく読めるだろう。惜しむらくは、クライマックスシーンの切れ味が…。いや、充分以上の出来だとは思うのだが、最盛期の阿刀田高氏が見せてくれた圧倒的な切れ味に比べると、いま一歩及ばないと思ってしまう。クライマックスに至るまでの盛り上げ方が非常に良かっただけに少し残念。


エピローグの展開は、途中で読めると言えば読めるのだが、その通りに登場人物が動いてくれたので、読後の安心感はある。


歴史物が好きな方、茶道に興味がある方は押さえておいて損はないかと。