やさしいダンテ〈神曲〉

やさしいダンテ<神曲> (角川文庫)

やさしいダンテ<神曲> (角川文庫)

阿刀田高さんが、古典として名高い「神曲」を解説した本。


神曲」は「地獄編」「煉獄編」「天国編」の三編からなる作品である。作者のダンテが地獄、煉獄、天国を見て回るという内容になっている。自分が初めて「神曲」を読んだのは十代後半〜二十代前半の間だったと思う。しかし、私が読んだのはギュスターヴ・ドレのイラストにスポットが当てられて、テキストはかなり端折られた、いわば絵本まがいの代物である。


神曲」はルネッサンスの前触れとなる偉大な作品であるが、阿刀田さんの解説を聞いた後だと意外とアレな小説に思えてしまう。
ダンテは現実世界において政争に身を投じ、政敵により故郷を追放されてしまうのだが、「神曲」の物語中ではダンテの政敵はほとんど地獄逝きになってしまっている。自分の気に入らない奴を、自分の妄想の中で地獄送りにしてしまう…今の日本だと、さしずめ中学二年生くらいの男子あたりが考えそうな内容である。もっとも日本の中学二年生は、そんな妄想を小説に書いて発表したりはしないが。
「天国編」でダンテを導くのはベアトリーチェという美女。現実世界でもダンテが思いを寄せた女性であるが、実際に会ったのはなんとたったの二度ほど…。ダンテはベアトリーチェの事を恋い慕っていた(小説の中で神聖なる女性として描くほどに)のだが、一方ベアトリーチェのほうはそれほどでもなかったそうな。ベアトリーチェは他の男性と結婚し、24才という若さで亡くなっているのだが、その女性が天国で自分を待っていて導いてくれると妄想してしまうのみならず、それを小説に書いて世に出してしまうのだから、とんでもなくスケールのでかい中二病である。


そもそも、キリスト教に対する一定以上の理解がないと「神曲」の言わんとしている事が伝わりきらないのかも。キリスト教徒ではない私には、阿刀田さんの解説をもってしても今一理解しきれない。子供が怖い物見たさに見る地獄絵巻。私にとっての「神曲」はそこ止まりなのが残念である。