半島を出よ(上)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

村上龍氏描く長編小説。
今現在、本当に南北朝鮮が統一されたら良いなどと思っている国は無いのではなかろうか。中国やアメリカにとっては敵対する勢力との緩衝地帯。韓国にしても、心情的には統一に淡い希望を抱いているだろうが、いざ統一した際に貧しい北朝鮮の国民を抱え込むなどまっぴらごめんであろう。日本にとっても、2つの基地外国家が1つになったところでやっぱり迷惑なことに変わりはなく、むしろ統一で困窮した半島にたかられるのがオチであろう。


この小説では、そんな状況を打開すべく北朝鮮の特殊部隊が福岡を侵略する。表向きには「北朝鮮に反乱して福岡へ来た」と言えば、誰も北朝鮮本土を攻撃出来ないし、日本政府は腰抜けで福岡市民への被害を恐れて手を出すことが出来ない。実際に計画は順調に進み、福岡がたやすく制圧されたことによって、日本国内に新たな緩衝地帯が生まれてしまう。


読んでいると「力は絶対だ」と思い知らされてしまう。非人道的な訓練を積み、殺戮機械と化した北朝鮮の特殊部隊員と平和ボケした日本の国民、そして首脳陣。自分自身も平和ボケした無力な日本国民であるということを改めて認識させられた。


北朝鮮の反乱軍が財産没収を狙って犯罪者達を逮捕する場面では、あれ?こいつらひょっとしたら良い奴じゃないか?と思わされてしまった。逮捕され拷問されるのは、汚職や犯罪行為で蓄財した、裁かれて当然の連中である。しかし、反乱軍も正義の味方ではなく、あくまで侵略者であり日本国民の敵であることを改めて思い知らされるような描写をちゃんと入れてくる。まことに読者の心を揺さぶるのが上手である。


序盤や途中で少し出てきた、日本社会において不適合者と見なされた若者達は大した活躍無し。下巻での活躍に期待だろうか。