兵士に告ぐ

兵士に告ぐ (小学館文庫)

兵士に告ぐ (小学館文庫)

自衛隊員を題材にした「兵士」シリーズの第4弾。


今回の題材は自衛隊海兵隊とも呼ばれる西部方面普通科連隊。2002年に設立された新しい部隊である。主任務は対馬海峡東シナ海に浮かぶ島々を防衛する事。普通科と称しているが実態はレンジャー並みの訓練をこなす特別な部隊である。


米国海兵隊との差異も述べられている。米国海兵隊は絶対に銃口を人に向けない事を徹底している。ただし、他のことは結構いい加減。訓練が時間通り始まらないことはざら。


これは厚木で飛行機を見ていても思うことがある。百里基地F-15部隊はほぼ決まった時間に訓練が開始されると常連に教えられ、事実教えられた時間通りに飛行機が飛び始めたのだが、厚木のホーネットは飛び始める時間がまちまち。ノリで訓練開始時間を決めてるんじゃないかとすら思う。


西部方面普通科連隊は特別な部隊だけに、装備品も通り一遍のものではない。が、それを提案しているのは部隊に所属する下士官。特別な任務を果たす為の特別な装備を研究、調達するのだが、戦争大好きで実戦のノウハウ豊かな米軍の装備をそのまま調達することが多い。自衛隊の装備品は、予算が無いのかそれとも予算がどこかへ消えてしまうのか、米軍の装備品に比べてちゃちい。とくに防寒や耐水性に難ありな物が多いので、民生品で補完するとか。そこら辺はまともな装備を兵に与えなかった旧軍にも通じるが、二十一世紀になってまだそんな事やってるのね…


一方で、駐屯地が無くなったせいで衰退した町の話なども載っている。こんなのを見てると、基地に経済を依存している市町村が基地を追い出したら、どうなってしまうのか心配になってくる。


あと、今回のもう一つのテーマとして「中隊長」があげられている。現場の最高指揮官たる中隊長。将棋盤上の駒ではなく、目の前にいる生きた人間である部下百数十人を指揮する立場こそ、自衛隊幹部として最高の瞬間なのだとか。何人かの名物中隊長が紹介され、その中には西部方面普通科連隊の中隊長も含まれている。下士官が提案する特別な装備の調達が可能になるのも、理解ある中隊長の存在があってこそ。「指揮官はひとりひとりの部下を三ヶ月かかっても掴みきれないが、部下はたった三日で指揮官のことを見抜いてしまう」上に立つ者が部下一人一人の性格や技量などを理解しなければ、正しい指揮はおぼつかない。しかも5〜6人の話ではない。百数十人が対象なのだ。僅かな部下しか居ないのに掌握が出来ず、しかも脱落していく部下の事を「あいつは出来ない奴だから」などと言う指揮官は、そもそも指揮官たる器では無いという事なのだろう。


今までの兵士シリーズよりは地味な内容である。ただし、今までよりも更に「人」にスポットをあてた内容であり、読後感は爽やかである。「兵士」シリーズを読んできた人は是非読むべき。