フェラーリと鉄瓶

フェラーリと鉄瓶 (PHP文庫)

フェラーリと鉄瓶 (PHP文庫)

フェラーリ創業55周年記念モデル「エンツォ・フェラーリ」のデザイナーである奥山氏が、自身のデザイン論やピニンファリーナ在籍時に見聞したイタリアの実態などについて語る本。


特に興味深かったのは、イタリアという国の、真の姿に関する記述である。


イタリアはあきらめの国である。イタリアは階級社会であり、名家の出身でないと絶対に社会の上の方には行けない。庶民層が生活を楽しんでいるように見えるのは、いくら頑張っても今以上の地位に行くことが出来ないのだから、今の生活を楽しもう、楽しむしかないと悟っているから。
税金が高く(詳細は分からないが、本の記述によると平均で55%??)、それなのに社会保障が酷い。公共病院は順番待ちが長すぎてほとんど役に立たず、私立の病院は早く診療をしてくれる代わりに高い料金を取る。
交通機関のストがあっても、運転手が勝手にバスを乗り回し、客から運賃をせしめ懐に入れてしまう。電車が遅れたあげく入るホームを間違えても「ここはイタリアだからね」でおしまい。
役人は役立たず(いわゆるお役所仕事)だが、友人がいると優先して仕事をしてもらえる。だから余計に、コネのない人の用事がどんどん後回しにされる…
全部丸写しにする訳にはいかないので端折るが、本を読むと「本当かよ?」と言いたくなるような世も末エピソードが満載である。


イタリアは職人の国でありドイツのような工業国とは異なるとも。
イタリアの現場の人はよく働く(日本人よりも!)。しかし、現場の人に権限がないから非効率なシステムを改善することが出来ず、労働者一人一人の生産性で補うしかないのだとか。


デザイン論についてだが、自分は「エンツォ・フェラーリ」のデザインを全く認めていないのだ。至高のF40、そんなに悪くないF50と比べて、こりゃないよと言いたくなるようなゴテゴテしたデザイン。だからここでもエンツォのデザインに関する事は取り上げない。


シンプルな良いデザインの見本としてプジョー406が上げられている。これはやはりピニンファリーナに在籍していたダビデ・アルカンジェリというデザイナーの作品だそうだ。この本の117頁に掲載されている写真を見る限りではどうという事のないデザインなのだが、実車を見ると度肝を抜かれること請け合い、プロポーションが伸びやかで実に美しいのだ。残念ながらアルカンジェリ氏は故人となってしまったそうだが、生きていれば今後も美しい車を生み続けてくれただろうと思うと実に惜しい。
で、プジョー406をシンプルな良いデザインとして誉めるのなら、エンツォもシンプルな良いデザインで作ってくれれば良かったのに…


それから、心に残った言葉が「管理職が管理すべきは仕事であって人ではない」。人を管理するのが管理職だと思いがちだが本当はそうではないと言う事だ。肝に銘じておきたい。


最後に、今現在の活動として、著者自らの故郷である山形の職人芸を生かしたものづくりへの取り組みが取り上げられている。ただ職人の技術があるだけでは、市場のニーズに応える事は出来ない。「仕事が素晴らしいのは分かるが私の生活には必要無い」と思われてしまったら意味がないのだ。ピニンファリーナでデザイン・ディレクターを務めた著者ならではの「職人芸と市場のニーズを結びつける」仕事が実を結ぶ事を祈りたい。



※気になったのでイタリアの税制についてggってみた。
所得税 … 23%(1万5,000ユーロ以下)、27%(1万5,000.01〜2万8,000ユーロ)、38%(2万8,000.01〜5万5,000ユーロ)、41%(5万5,000.01〜7万5,000ユーロ)、43%(7万5,000.01ユーロ以上)
付加価値税(日本で言う消費税にあたる間接税) … 標準税率は20%。但し、対象品目(主に生活必需品)によっては10%、4%と軽減される。
社会保険料 … 給与の32.7%(ただし本人負担は8.89%)
法人税 … 27.5%(2008年1月1日から)



こちらは蛇足
http://www.mof.go.jp/genan22/zei001e.htm
法人税社会保険料を合計した企業負担の国別比較
日本の場合、法人税が高くても社会保険料の企業負担割合が低いので、結果的な負担は決して高くないことが明示されている。ちなみにこの資料の出典は、アドレスを見てもお分かり頂ける通り日本の財務省である。