国力とは何か 経済ナショナリズムの理論と政策
国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策 (講談社現代新書)
- 作者: 中野剛志
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/15
- メディア: 新書
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巷ではグローバル化が正当な流れであるかのように語られ、それに迎合することが正しい道だと言われている。しかし、本書では新自由主義者によるグローバル化への安易な迎合に警鐘を鳴らし、ネイション(国民)の能力とステイト(国家)の支配力を統合したネイション・ステイト(国民国家)の力を発揮させることこそが、混迷する21世紀を生き抜く道だと説く。そして、ネイション・ステイトを導く道しるべこそが経済ナショナリズムなのだと。
封建社会において、伝統的な共同体や封建秩序に固く拘束されていた人々は、近代国家の成立により因習より解き放たれ、個人の人格を手に入れ、国民(ネイション)となった。但し、野放図に開放され社会と隔絶した個人は、道徳に律せられて行動することはない。個人は、家族、地域社会、協同組合、産業組織、社交クラブ、政治団体といった「中間組織」に所属し、緩やかに共同体に結びつけられる事によって再び道徳を備えた存在になる。そして、このような「中間組織」を豊かに含んだ社会こそが「市民社会」と呼ばれるものになる。強力な近代国家が市民社会を保護し、市民社会が近代国家を成立させる。
但し、新自由主義の名の下に利益のみが追求されれば、市民社会は衰退していく。市民社会の衰退は、すなわち国民国家の衰退である。国家が衰退すれば、やがては経済活動もおぼつかなくなる。アフリカの失敗国家のようなところでまともな経済活動が出来るだろうか。ある意味、新自由主義者は国家という親のすねを囓っているようにも見える。
新自由主義によって日本は豊かになったのか。バブル崩壊後、日本は不況を打破するために新自由主義に基づいた構造改革、規制緩和を行ってきたが、その結果として所得格差が増大し、国民の幸福感は減少する一方である。今こそ、国家が正しい政策、正しい規制、正しい財政出動を行って、国民の力(ネイションの能力)を増大すべき時である。グローバル化からナショナル化への転向。それでこそ、他の国家の暴力(ステイトの支配力。厨獄や、ある意味※酷)から自らを守ることが出来るのではないか。
新自由主義やグローバル化の危うさが良く書かれている本。この本を読んだら、そりゃTPP(関税及び非関税障壁の撤廃…究極のグローバル化ですね)なんて、日本にとって何の得にもならんなぁ…と思ったのだった。