航空戦士のこころ−さまざまな思いで闘う空

渡辺洋二氏の新刊。旧日本陸海軍の航空に関するエピソードが8つ、戦後の日本航空史に関するエピソードが1つ、ジェット戦闘機に関するエピソードが2つの計11編から構成されている。


・沖縄行きを阻む声
最も衝撃的なエピソード。
特攻命令を拒否した美濃部正少佐率いる夜間攻撃部隊「芙蓉部隊」に所属するベテラン偵察員が新米操縦者とペアを組まされるが、あまりに未熟な操縦技術に懸念を抱き、交戦空域に行かないよう画策するという内容である。
ある意味、敵前逃亡に等しい行為であり、もし戦時中に発覚したらとんでもないことになっていただろう。
ここで勘違いしてはいけないのは、ベテラン偵察員は怯懦によってこのような行為に走ったのではないということである。このベテラン偵察員は、同期の信頼できる操縦員とペアを組み、困難な任務を何度も達成している。彼はただ、未熟な操縦によって無駄死にするのを嫌っただけなのだ。
驚いたのは、新米操縦者の技量を危ぶみペアの交換を美濃部少佐に願い出たところ、「(新米操縦者は)御賜(兵学校の成績優等者)だから優秀だ。安心して乗れ」と返されたという話である。あの英雄、美濃部少佐がこんなアホな発言をするとは正に驚愕である。兵学校の成績が優秀でも操縦が未熟なら現場で使い物にならない。お勉強は出来ても会社ではいまいち使えない高学歴者みたいなものである。
美濃部少佐を擁護するなら、隊員達を特攻に行かせないため、芙蓉部隊としてより多くの戦果を上げる必要があった。特攻という壮大な無理・無駄をさせないためには、隊員達に多少の無理はさせねばならない状況ではあったのだ。


・歪んだ回想
編集者として、誤ったソースを元に誤った記事を作成してしまった著者自身の体験談。内容は詳しく書かないが、「う〜ん、そういう事ってあるよねぇ…」と思わされるような、ちょっと切ないエピソードだった。


・ミニ戦闘機「ナット」出撃
小さな小さなジェット戦闘機、フォーランド ナットの大活躍が描かれている。
イギリスで開発され、母国では戦闘機として採用されることは無かったが、その簡便さ、安価さ、軽快な操縦性を気に入ったインド空軍が大量採用。やがて突入する第二次印パ戦争及び第三次印パ戦争で、インド空軍の中核となってパキスタン空軍機を圧倒する。
レーダーとロングレンジミサイルが支配する味気ない現代の空中戦と異なり、ガンvsガンによる、血湧き肉躍る空中戦。1975年初出とのことだが、今だに古びていない、読んでいるとワクワクしてくる戦記である。


他にもさすが渡辺氏と思えるような興味深いエピソードがたくさん。空戦史に興味がある人は是非。