祖父たちの零戦

進藤三郎氏、鈴木實氏を中心として、多くの零戦乗りへのインタビューを元にしたノンフィクション。内容的には中国でのデビュー、太平洋戦争での栄光と悲劇といった、今までの零戦に関する書籍と同じようなものなのだが、進藤三郎氏を始めとした、今まで多くを語ることの無かった人々の声が納められており、こちらが読みどころだろう。


意外だったのは、中国戦線において、機体(零戦vsI15・I16)にはアドバンテージがあるものの練度では中国軍に劣っていると零戦パイロット達が思っていたことである。それと、中国側パイロットは零戦のスピードに脅威を感じていたと言うこと。逆に零戦パイロットはI15(複葉機)の格闘戦の強さに驚いており、零戦=格闘戦バカというイメージは、当時のパイロット達の認識とは少しずれているようである。


それから、太平洋戦争突入前に、多くのパイロット達が戦争の行く末を懸念していたという事実。砲弾に身を晒さない上級幹部連中や情報を統制された国民と違い、冷静に行く末を見つめていたのだろう。


中国軍より練度が低いと自覚していたパイロット達だが、実戦を通じてどんどん練度を上げていく。今度はアメリカ軍の戦闘機を高い練度でもって圧倒していくのだが、アメリカ軍が格闘戦からズーム&ダイブ戦法に移行し、2機1組のサッチ・ウィーブを使いこなすに至ってキルレシオが逆転するのはご存じの通り。


ちょっと引っかかったのが坂井三郎氏に対する記述。ガダルカナル上空でSBDドーントレスに集中砲火を浴びせられて負傷し、意識朦朧とした状態でときに背面飛行になりながらラバウルに帰ってきたという話に対し、杉田庄一上飛曹が「零戦は正しく整備・調整されていれば、たとえ手を離して飛んでも、上昇、下降を繰り返してやがて水平飛行に戻る。意識を失って背面状態に入り、それが続くなんてことはない。」と非難したというエピソードを紹介するが…
杉田上飛曹自身が言っているとおり「正しく整備・調整」されていれば零戦は安定して飛ぶ(そもそも「正しく整備・調整」されていてもちゃんと飛ばない機体ってどんなの?)のかもしれないが、この場合は集中砲火を浴びて機体が損傷している状態である。安定性が損なわれていてもおかしくは無い。杉田上飛曹がこう言ったのは紛れもない事実なのだろうが、それに注釈も付けずに載せてしまうのはノンフィクション作品としては如何なものだろうか。それ以外にも戦後に坂井氏がネズミ講に関わった事柄が載せてあるが、この話、必要だったんですかね…


太平洋戦争、特に海軍航空隊に興味がある人は一応読んでおいても良いのでは。